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教える空間から学び合う場へ*の進展を目指して ―― 附属小学校68年目の夏休み

24.09.02

「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を図るべく、この夏休み中に1年生から6年生まですべての教室の黒板をホワイトボードに取り換え、ホワイトボードの上に短焦点プロジェクターを設置しました。あわせて教壇を撤去しました。『附小だより』9月号に掲載した「巻頭言」の一部を紹介します。 

 

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  この夏休み中に1年生から6年生までの14教室すべての黒板がホワイトボードになりました。そしてホワイトボードの上には短焦点プロジェクターが設置されました。短焦点プロジェクターとは短い距離でも大きいサイズの画面を投影できるプロジェクターのことです。 
 
  1人1台、iPadなどの端末を活用することが日常になってきました。子どもたちが発表するときも、まずはiPadで資料を作成し、それをプロジェクターで投影する。そしてホワイトボードに大きく映し出された自分のノートや資料を指さしながら、クラスのみんなの方を向いて発表する。こうしたことがサクサクできるようになることでしょう。 
 
  その一方で、黒板がなくなったことからチョーク、黒板消し、黒板消しクリーナー、それに黒板の粉受けに溜まったチョークの粉を掃き集めていた刷毛(はけ)もその役目を終えることになりました。長年にわたりお世話になった道具です。「ご苦労様でした」という感謝の意を込めて教室から回収しました。 
 
  これらは比較的小さな道具でしたが、今回、教室環境の整備に当たり、教室にあった最も大きなものを撤去しました。教壇です。 
 
  教壇とは、文字通り、教室で授業するときに教師が立っていた壇のことです。この壇を置くと床より15cmほど高くなることから背の低い先生でも黒板の上部に文字を書くことができる、また教室の奥まで見通すことができる、というように有用な道具でした。ところがそれがいつの頃からか「教壇に立つ」といえば「教職」を意味するようになり、教師の立つ位置を子どもたちより一段高くしていた教壇は、教師の威厳を保つための「聖域」となっていたように思います。それに伴い教卓は単なるテーブルではなく、教壇という「聖域」と子どもたちのいる場所とを分ける「結界」の役目を果たすようになってきました。 
 
  2020年より導入された学習指導要領は、「令和の日本型学校教育」のあり方として「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を求めています。「個別最適な学び」とは、子どもたち一人ひとりの学習進度や個性に合わせた学習活動を実践することで、子ども自身が自己の可能性を最大限に引き出すことを目指すものです。「協働的な学び」とは、多様な他者と協働し、相手を尊重しながら、新たな考えを創造していくこと、そして異なる考え方を組み合わせることでより深い理解を生み出していこうとする学びのことです。いずれにおいてもこうした学びを実現するためには、ICTの効果的な活用が重要になります。 
 
  講義形式の一斉授業であれば教師は「教壇に立つ」ことでよかったのでしょう。けれども、子ども一人ひとりに対応をした学習やグループ活動を支援するためには教師は教壇から離れる必要があります。教壇から離れるからといっても旧来型の机間巡視を増やすこととは違います。教壇から離れるということは、子どもたちと同じ目線に立ち、ともに考えていこうとする教師であること、そうした思いであることを表明することにほかなりません。 
 
  今、教師は「子どもに教える人」から「子どもの学びを支える伴走者」に変わることが求められています。それに伴い教室のあり方も「教える空間から、ともに学び合う場へ」とその意味付けが変わってきています。教壇を撤去したことで、子どもたちが使う机や椅子の配置はもちろん、教卓や教師用の机も学びの目的と用途に応じて柔軟に動かすことができるようになることでしょう。教室の広さそのものは変わっていませんが、「ともに学び合う場」を作っていこうという思いを実現する可能性は広がったといえます。 
  
  今年の夏休みは附属小学校の創立から68年目、現在の校舎ができてから48年目に当たります。これまで使われてきた教壇は、2008年の校舎全面リニューアル時に設置されたもののようです。教壇のあったところが、そこだけ少し真新しいままでした。それも新しい学びの進展とともに、周りの色に馴染んでいくことでしょう。 
 

 

*表題の「教える空間から学び合う場へ」というネーミングについては、牧田秀昭・秋田喜代美『教える空間から学び合う場へ―数学教師の授業づくり』( 東洋館出版社、2012年)を参照し、借用しました。 
 

 

 

ではまた                                                      坂口満宏

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