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『附小だより』12月号の「巻頭言」に11月25日の全校朝礼で話した「テキストとコンテキスト、はたまたメタファー~『星の王子さま』のイラストに込められた意味を読み解くヒント~」を掲載しました。ここにその一部を再録しておきます。
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皆さん、おはようございます。
1943年に出版された『星の王子さま』には、作者のサン=テグジュペリ自身によって、大小さまざまなイラストが47点描かれています。それらはいったい何を表しているのだろうか、ということで長年にわたってさまざまな解釈がなされています。
さて、イラスト(その1)を見てください。何に見えますか? 帽子でしょうか? 山でしょうか?
このイラストは、のちにパイロットとなる「ぼく」が6歳の頃描いた絵で、大人を驚かそうと思って描いたものでした。しかし大人たちは「なんで帽子が怖いのさ」というので、大人でもわかるようにと2枚目の絵を描きました。最初の絵はゾウを丸呑みしたウワバミの絵だったのです。ウワバミは6カ月かけて丸呑みした獲物(えもの)を消化していきます。怖いでしょうと説明するのですが、大人たちはそんな絵を描くのはやめて、数学と歴史と地理の勉強をしなさいというばかりです。そのため6歳の「ぼく」は絵描きになる夢をあきらめた・・・というエピソードです。
『星の王子さま』の第1章に出てくる有名なお話ですが、ウワバミの絵は何を意味しているのか、さまざまな解釈がなされました。ある研究者は、6カ月かけて丸呑みした獲物を消化していくということをとらえ、これは1940年前後に6か月ごとに軍事行動を起こしたナチス・ドイツの恐ろしさを絵にしたものだと解釈していました*。さあ、皆さんはどのようにとらえますか。
イラスト(その2)はバオバブの木をめぐるエピソードです。星の王子さまはバオバブの木が芽を出してきたらこまめに抜いていたのですが、ある星に住んでいたなまけものは、その芽はまだ小さいといって、バオバブの木の芽を抜くことなく、三本ほうりっぱなしにしていました。そうしたらこうなってしまった、というイラストです。
このエピソードとイラストをめぐっても、さまざまな解釈がだされています。この星を「地球」だとすると、三本の木は1940年に締結されたあの3か国による軍事同盟の脅威を表しているのではないか、という説もあります**。さあ、皆さんならどのように解釈しますか。
3つ目のイラスト(その3)は、王子さまを困らせた一輪のバラの花です。王子さまはそのバラを大切に育てたのですが、あまりにもプライドが高いため面倒をみることができなくなりました。そして王子さまは、自分の星を離れ、他の星に旅立つことを決心しました。そのきっかけとなったバラです。バラの花ことばは、美しさや愛です。そのためこのバラは、王子さまに愛の存在と責任を気づかせるため、作者が用意したのだろうという解釈がなされています。
では作者サン=テグジュペリにとってバラの花のモデルは誰だったのでしょうか。それは夫と仲違いと和解を繰り返しながら、夫の創作を励ましていた妻のコンスエロ・スンシンだとされています。彼女には『バラの回想―夫サン=テグジュペリとの14年』という著作があるそうです。
さて、3つの例を示して『星の王子さま』にでてくるイラストに込められた意味を読み解くヒントを紹介してきました。このようなお話をしようと思ったのは、文章を読み解くためには「テキスト」と「コンテキスト」、はたまた「メタファー」という言葉を覚えてもらおうと思ったからです。
「テキスト」とは書物や物語の本文、文章のことです。「コンテキスト」とは、聞き慣れない言葉だと思いますが、文脈とよばれるもので、ある物事に関係する事情や時代背景など物事を理解する助けとなる情報のことです。1学期にお話した「行間を埋める知識=スキーマ」と共に活用することで文章を深く理解できるとされています。「メタファー」とはあるものを他のものごとになぞらえて表現することです。
『星の王子さま』が多くの人に読み継がれる理由はさまざまです。
ある人は 「一番大切なものは、目にみえないんだよ」といった、心に響く数々の名言に魅了されたからというかもしれません。またある人はテキストの行間に込められた作者の思いやイラストに描かれた数々のメタファーについて、当時の時代背景と折り重ねて解釈することが楽しいからというかもしれません。校長先生もその一人で、ページをめくるたびに「正解のない問い」にいざなってくれることがその理由の一つです。さらには星の王子さまが出会ってきたさまざまな大人たちの描写を通して「あなたは、現状を疑うことのない、つまらない大人になっていませんか」 と、問いかけてくれているように思うからです。
皆さんならどのように読み込みますか。
年齢を重ねるたびに読み返してみることもお勧めです。
これで校長先生のお話を終わります。
*塚崎幹夫『星の王子さまの世界』(中公新書、1982年)
**吉田浩『「星の王子さま」謎が解けた』(二見書房、2001年)
〔イラストの出典〕
サン=テグジュペリ作 内藤濯訳『星の王子さま オリジナル版』(岩波書店、2000年)
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ではまた
坂口満宏