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皆さん、おはようございます。
前回の全校朝礼では「テキストとコンテキスト、はたまたメタファー」と題して、『星の王子さま」を読み解くヒントについてお話ししました。今回は(その2)として、皆さんのよく知っている『桃太郎』の物語を読み解くヒントについてお話ししたいと思います。
皆さんが知っている『ももたろう(桃太郎)』は、どのようなお話でしたか。まずは皆さんと一緒にその「あらすじ」を思いだしてみましょう。
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が流れてきました。それをひろったおばあさんは家に持ち帰り、桃を二つに切ると中から玉のような男の子が出てきました。
「桃太郎」と名付けられたその子は、大きくなると鬼退治に行くといいました。おじいさんおばあさんに羽織・袴と見事な刀を用意してもらった桃太郎は、日本一のきび団子を持って鬼ヶ島へ向かいます。その途中、犬、猿、キジに会い、きび団子をあげておともにしました。鬼ヶ島についた桃太郎は、鬼と対決しました。鬼はもう悪さはしませんと桃太郎に許しを請いました。鬼から宝物をもらった桃太郎は、おじいさんおばあさんの待つ家へと帰り、しあわせにくらしましたとさ・・・。
では皆さんにお尋ねします。こうした昔話に出てくる「桃太郎」は、皆さんにとって「正義の味方」ですか、それとも鬼から「鬼の宝物を奪い取ってきた盗人(ぬすっと)」ですか。
さらに尋ねます。「桃太郎」のお話を読んだとき
(1)桃太郎は、どうして鬼ヶ島に行ったの?
(2)桃太郎は、桃から生まれたの? 本当?
(3)鬼とは、何者なの?
ということに疑問をもったことがありましたか。
2018年といいますから、今から6年前に小学校5年生だった倉持よつばさんは、『空からのぞいた桃太郎』(影山徹著、岩崎書店、2017年)という絵本を読み、『桃太郎』の話は昔から多くの人によっておかしな点があると指摘されてきたことを知ります。そして「桃太郎は盗人(ぬすっと)なのか?」という疑問を立て、調べ学習をはじめたといいます。そうしてまとめた自由研究が認められ、「図書館を使った調べる学習コンクール」で文部科学大臣賞し、2019年に書籍化されました。それが『桃太郎は盗人なのか?―『桃太郎』から考える鬼の正体―』です。
先ほど尋ねた3つの疑問は、いずれも倉持よつばさんが立てたものでした。ここからは、倉持さんがどのようにして3つの疑問を明らかにしようとしたのか、ということを紹介していきます。
(1)桃太郎はどうして鬼ヶ島に行ったの?
この疑問に対して倉持さんは、桃太郎の本 74冊を読み比べてみることにしたといいます。 漫然と読んでもまとまりが付かなくなりますので、読み比べるためにつぎの3つの視点を定めたといいます。
1 鬼退治に行く理由がどんなふうに書かれているか
2 桃太郎が唐突に「鬼ヶ島に行く」と言っているか
3 鬼が悪さをしているか、していないか (倉持:26ページ)
こうした作業は、文献資料を的確に読み解く作業ですので「テキスト分析」ということができます。
(2)桃太郎は、桃から生まれたの? 本当?
つぎに倉持さんは、江戸時代中期から1933年までに書かれた「桃太郎」を時代順に並べ、「桃太郎の生まれかた」と「鬼ヶ島へ行った理由」の2つについて、それぞれの変化を年表にまとめていきます(倉持:44~45ページ)。そうすると
1 江戸時代の桃太郎は、おばあさんから生まれているが、明治時代以降に書かれたものでは桃から生まれてくるようになる
2 1894年頃から鬼退治をする理由が付け加えられるようになる
として、今と昔ではお話の内容がずいぶんと違うことがわかってきた、といいます。物語が書かれた時代背景という文脈を加味して考察していますので、たこうした作業は「コンテキスト分析」にあたるといえます。
(3)鬼とは、何者なの?
最後に倉持さんは、「鬼は悪い者なの?」という疑問をもとに、鬼に関する研究を調べることにしたといいます。そしてさまざまな説があったとして、それらを ①霊魂説 ②海賊説 ③人間説 ④神説(59~73ページ)に整理していきます。そして「自分なりの『鬼は何者なのか?』の答え」として次のようにまとめました。
私は、鬼は一人ひとりの心の中にいて、その鬼がたまにでてくるけど、その鬼がいないと、一人ひとりの心は成長しないと思う。その鬼がいるからみんなは成長する。 (倉持:83ページ)
「鬼」とは得体のしれないものですが、一人ひとりの心の中にいる何かのメタファーのようです。
やさしい鬼もたくさんいるはずです、探してみましょう。
これで校長先生のお話を終わります。
〔参考文献〕倉持よつば『桃太郎は盗人なのか?―『桃太郎』から考える鬼の正体―』(新日本出版、2019年)
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ではまた
坂口満宏