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『附小だより』2月号(2025年2月1日)の「巻頭言」に「お雑煮調査を通して学ぶ『探究のプロセス』」を掲載しました。ここにその一部を再録しておきます。
3学期の始業式(2025年1月8日)で私は、「お雑煮は、お正月という、とびっきりのハレの日に食べる「家庭料理」です」と題して式辞を述べ、皆さんがどのようなお雑煮を食べたのか、一度、正確なデータを取って見たいものですとして、〔醤油味とみそ味〕の横軸と〔丸い餅と四角い餅〕の縦軸を交差させた「我が家のお雑煮・4象限マトリクス」を作り、4つの領域―①醤油・丸餅、②みそ・丸餅、③みそ・角餅、④醤油・角餅―にシールを貼ってもらう調査を提案しました。
翌週、正面玄関入口にデータ収集用のシートを張り、2025年1月14日、15日、16日の3日間、みそ味には赤丸シール、しょうゆ味には青丸のシールを貼ってもらいました。そうして出来上がったのが図1の「附小お雑煮マトリクス」です。貼られたシールの枚数は357枚。本校の児童数は405人ですので、データの収集率は88.1%に及びました。
さらに翌週の1月20日、ZOOM朝礼を利用し、「ロイロノートの『資料箱』に『お雑煮マトリクス』の写真を掲載します。貼られたシールの枚数、みなさんで数えてみてください。そしてどうしてこのような分布になったのかという疑問について考察し、100字程度にまとめてください」という分析依頼を投げかけました。1月24日の締切りまでに20件余りの「わたしの考察」が投稿されました。以下はその一例です。
Aさん:―番多いのは丸いもちのみそベースで、二番目は丸もちのしょうゆ。このことから関西では、丸いおもちが多いことがわかりま す。逆に四角いもちが一番少ないということもわかります。ちなみに、私は丸いもちのみそベースです。
Bさん:私は、醤油味で、丸いお餅でした。 他の人のも見たら、味噌味で丸いお餅が多かったです。また、四角いお餅は、関東や東北で 食べられ、丸いお餅は、関西で食べられます。
Cさん:醤油丸約96個、味噌丸約139個、味噌角約41個、京都は味噌が多い。丸餅が角餅の2倍ある。線の上醤油2個、味噌約9個。食べてい ない、どっちも食べた。
図2は「探究学習のプロセス」イメージです。このプロセスに準じて今回のお雑煮調査のプロセスを位置づけると
①課題設定 附小児童が食べた雑煮の味ともちの形の組み合わせはどれが多いのだろうか
②情報の収集 お雑煮の味とおもちの形の組み合わせから4つに分けて情報を集める
③整理・分析 集めた情報を開示し、整理しながら、しっかり読み込み、分析・考察する
④まとめ・表現 考察したことを100字程度でまとめ、「わたしの考察」として発表
となります。今回の調査では、①の課題設定と②の情報収集用の作業シートについては校長が準備、③と④については児童の主体的な参加を促し、分析し、発表してもらったことになります。
これが単独の学習であれば、「私の考察は以上の通りです」と発表すれば拍手をもって終了となることでしょう。しかしこれでは自分の取り組み方に対して内省する機会が乏しいため、深い学びにはつながりません。学びを深めるためには、無自覚だった自分の行動や認識の甘さに気づき、ものの見方や価値観を変えていく体験が必要となります。その一つの方法が「対話的な学び」です。
しかし「さあ話し合いましょう」といわれてもなかなか話し合えないものです。まずはじっくり考えてもらうことが必要になります。そして「話すべきこと」が定まったとき、初めて話し合いに参加できるようになります。堀裕嗣氏はこの「話すべきこと」を持つことを「第一次自己決定」と名付けています。今回のお雑煮調査でいえば100字程度でまとめた「わたしの考察」がそれにあたります。
今回のお雑煮調査では「わたしの考察」を提出した児童に対話してもらう場を設けていません。以下はこんな対話が進むと「深い学び」になるだろうな、という校長の「空想」です。
「Cさんは、貼られたシールをすべて数えたのですか」
「そうです、校長からの課題にシールの枚数、みなさんで数えてみてくださいとありましたから」
「数字を出して比較すると何が一番多いのか、はっきりしますね。私は見た印象だけで多い少ないを決めていました。次にはしっかりと数えてから判断しようと思いました」
「関西では丸いお餅が多いとありますけれど、このマトリクスだけでは地域のことはわからないはずです。丸いお餅のところにシールを貼った人の生活圏が本当に関西なのか、別の調査が必要だと思います」
「そうですね、四角いお餅は関東や東北で食べられている、ということについては検索して知ったことです。ネットに書かれていることをそのまま写しました。情報を鵜吞みにしないで、もう少し調べてみることにします」
「話すべきこと」を持ち寄り対話する。すると子どもたちのなかに「新たな認識」が生まれ、自ら次に取り組むべき課題も見つかっていきます。「探究」のプロセスは次のレベルへと高まっていくことでしょう。
〔参考文献〕 文部科学省『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(小学校編)』(2021年)
堀裕嗣『AL授業 10の原理・100の原則』(明治図書、2023年)
市川遼馬『探究力 大切なことは小学校で学んでいる』(つむぎ所蔵、2024年)
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ではまた
坂口満宏