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新しい年を迎えました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今年もまた『附小だより』1月号の誌面をお借りし、81年前にあった京都の馬町空襲についてお伝えします。
馬町空襲とは
今から81年前の1945年1月16日午後11時19分、米軍のB29一機が京都に飛来し、馬町周辺に250ポンド爆弾20発を投下しました。この空襲により、当時の修道国民学校周辺の民家や京都女子専門学校の寮、京都幼稚園などに大きな被害が出ました。
正確な死傷者数は分かっていませんが、京都府の記録では、死者34人、負傷者56人、全焼・全壊31戸、半壊112戸とされています。
馬町空襲を語り継ぐ会の取り組み
馬町空襲の記憶を次の世代へ確かに伝えていきたいという思いから、空襲から67年が経った2012年1月に、「馬町空襲を語り継ぐ会」の母体となる組織が立ち上げられました。2014年1月16日には、京都市立東山総合支援学校の敷地内に「馬町 空襲の地」と刻まれた碑が建立され、地域の歴史を学ぶ大切な場となっています。
その後、空襲被害の様子を捉えた新たな写真が見つかり、京都女子大学の学生たちによって分析が行われました。その成果は『伝えたい記憶―写真に見る京都・馬町空襲被害地図』としてまとめられ、2018年1月に報告されました。上掲の被害地図はその増補改訂版です。
馬町空襲に関する新たな史料 ― 湯川秀樹の日記と吉井勇の日記
「馬町空襲を語り継ぐ会」の取り組みは、2018年の献花追悼式典をもって一区切りとなりました。しかし、馬町空襲への関心はむしろ高まり、新たに公開された日記に注目が集まりました。二つの史料を紹介します。
まずは1945年の物理学者『湯川秀樹研究室日記』です。
〔1月18日の日記〕
16日夜、京都市東山女専へ米機爆弾投下、京都への投弾はこれが初めてである
〔1月25日の日記〕
1月16日夜 東山爆撃結果 11時15分投弾 24分警報発令 高度6000以上
爆弾50瓩<キログラム>13個以上 焼夷弾2個
落下地点 鳥辺山墓地、三島神社、修道校、 妙法院前、京都幼稚園、東山渋谷通り
死者34名 即死17名 重傷23名 軽傷26名 家屋全壊廿余戸 半壊112戸 全焼2戸 罹災者750名
敵機は西南より来り東北に去る 灯管不良。硝子破片にて負傷多し 布団を被ること 硝子戸開けること
湯川秀樹がどこから情報を得たのかは不明ですが、きわめて詳細な記録です。
二つ目は「祇園小唄」の作者として知られる歌人・吉井勇の『洛東日録』です。
空襲当時、吉井は馬町から3キロほど離れた岡崎に住んでいたといいます。
〔1月16日の日記〕
九時前就褥。一睡したりと思ふ間もなく轟然たる爆裂音に目覚む。まさに投弾とおもふと同時に飛行機の爆音。
五分ほどして警戒警報。情報は伝えて曰く、敵機京都の北方に在り、転じて名古屋に向かふと。
果して今のは何ものをか投下せるものなるべし。やがて警報解除。催眠薬を嚥みて再寝。時に十一時五十分。
〔1月17日の日記〕
岸本水府来る。昨夜の爆音と同時に煙硝の匂ひを嗅ぎたりといふ。或ひは北白川あたりか。
・・・聴くところに依れば昨夜の爆撃は五条阪なるよし。いよいよ京洛も修羅の巷か。
〔1月18日の日記〕
松竹の菱田君来る。・・・聴くところに依れば一昨夜の投弾は九個。死者三十名ほど。
爆風のため白井氏宅の窓硝子も壊れたる由。いよいよ戦禍身近に迫るの感あり。
空襲に恐怖を覚えた様子が生々しく記されています。そして24日に吉井勇は富⼭県⼋尾(やつお)への疎開を決めたといいます。そのきっかけとなったのが馬町空襲でした。
AIカラー化による新たな継承のかたち
最後に、AI技術を用いて空襲被害写真に色を付け、約25分のスライドショーとして再構成した取り組みを紹介します。これは2025年7月、「馬町空襲を語り継ぐ会」の関係者の尽力によって制作されたもので、爆撃地点や爆弾の構造、空襲による被害状況について、音声による丁寧な解説が添えられています。モノクロ写真に色が加わったことで、当時の人びとの衣服や家屋が立体的に浮かび上がり、子どもたちにとっても理解しやすくなり、空襲被害の深刻さがより鮮明に伝わるようになりました。たくさんの発見があると思います。
ぜひご覧ください。
おわりに
実際に空襲被害を知る世代が少なくなる中で、文献史料のデジタル公開やAIによる古写真のカラー化は、過去の出来事を「遠い歴史」ではなく、「自分たちの社会の記憶」として捉え直す大切な契機となります。こうした取り組みは、平和教育や地域史研究においても重要な役割を果たしています。過去の記憶を未来への学びへとつなげていくためにも、さらなる語りと共有が求められています。
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〔参考文献〕
・京都大学基礎物理学研究所湯川記念館史料室のウェブサイト「湯川秀樹研究室日記 昭和20年1月-2月(解読文)
2018年4月6日改訂版」
https://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~yhal.oj/diary.html
・小沼通二『湯川秀樹日記 京都で記した戦中戦後』(京都新聞出版センター、2020年)
・細川光洋「吉井勇の戦中日記 ―『洛東日録』抄」 (『国際関係・比較文化研究』 静岡県立大学国際関係学部、
第19巻第1号、2020年9月)
https://u-shizuoka-ken.repo.nii.ac.jp/records/4833
・馬町空襲を語り継ぐ会 「京都・馬町空襲 この事実を後世に伝える」スライドショー
https://www.vinaccia.jp/umamachi/index.html
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ではまた
坂口満宏